電通
構想を語るだけでは、使う人の反応も、事業の条件も見えてこない。2017年に電通へ入社した坂巻 匡彦は、ビジネスデザインスクエアのチーフ・デザイン・ディレクターとして、企業の事業・サービス開発に携わった。電子楽器の開発で培った試作の考え方を、事業づくりへと展開した時期だ。
本人署名のプロトタイピングに関する記事は、見た目、動作、使う状況を試すための試作を整理している。アイデアを具体物に置き換えることで、議論の焦点を定め、体験・事業性・実現性にまつわる不確実性を減らす。試作品は、構想を確かめるための問いにもなる。
試作の整理では、見た目や存在感を確かめる容貌プロトタイプ、機能を確かめる動作プロトタイプ、使う場面を確かめる状況プロトタイプを区別する。さらに収益性の検討を重ね、現実に近い条件で検証するDeep Prototypeへつなぐ。全部を完成させてから反応を待つのではなく、いま確かめたい不確実性に合わせて、つくるものの範囲と精度を選ぶ考え方である。
この視点は、完成度の高い模型をつくることだけをプロトタイピングと呼ばない。外観が説得力を持つことと、機能が働くこと、使う人が価値を感じることは、それぞれ別の問いだ。問いを分けて具体化すれば、議論の相手も確かめる条件も明確になる。楽器の企画・開発で経験した試行を、企業が新たなサービスを判断する過程へ持ち込む。その間をつなぐ実践と発信が、電通での活動の軸になっている。
2020年にはExpert Idea 500の開発に参加。専門家の知見を集める仕組みと、案を評価するプロセスをつないだ。発想を増やし、事業案へ絞り込む二つの段階を連続して扱う。試作によって構想を確かめることと、問いによって他者の知見を引き出すこと。その両方が、サービスの成り立ちを考える仕事へ接続している。