音楽を聴くことと、つくること。そのあいだにある距離を、身近な音から縮められないだろうか。AutoVersionは、坂巻 匡彦が千葉大学の卒業研究「日常音を用いた自動作曲ソフトウェアの提案」で制作した音楽ソフトウェアだ。楽器の演奏能力や音楽理論を入り口の条件にせず、日常にあるものを鳴らす行為から作曲を始められるようにする。パソコンの前に座る人を、音楽の聴き手からつくり手へと誘う試みだった。
着想の手がかりは、映画やコマーシャルに登場する、楽器以外の音で構成された音楽だった。マイクから日常音を取り込み、自動で録音し、自動作曲へつなぐ。音源を選び、録音し、曲の形を組み上げる操作を一つずつ覚える前に、まず自分の出した音が音楽になる体験をつくる。編集機能は、その体験に手を加えるための補助として位置づけた。
フレーズを構成するため、完全ランダム型とランダム選択型の自動作曲を採用。システムは音声入力と自動音量調節から、音の分類、フレーズパターン、音長の調節、ミックス、曲の出力へと進む。音程のはっきりしない素材も扱うため、旋律だけに頼らず、音の並びや長さ、重なりで曲を形づくる。偶然の組み合わせが、聞き慣れた音に別の表情を与える。
UIには、再生、録音、直前の録音の再生などをまとめた操作画面と、テンポやフレーズの構成を扱う詳細画面を用意した。大きく掲げたAUTOVERSIONの文字と簡潔な操作項目。その奥に、音が生成される仕組みを見渡せる画面が続く。日常音を素材にする発想を、触れて確かめられるソフトウェアとして具体化した。
2002年には、『トランスMaxエクスプレス』出版記念オリジナル・パッチ・コンテストで、サウンド&レコーディング・マガジン賞(アート部門)を受賞。結果は同誌2002年5月号で発表された。音を集めること自体を創作の入り口にする、小さな作曲環境である。