MS-20 Kit
完成品を手に入れる前に、楽器を組み立てる時間がある。MS-20 Kitは、アナログ・シンセサイザーMS-20を原機と同じ大きさで作るキットだ。坂巻は商品企画を担当。はんだ付けを必要としない組み立てを採用し、部品を組み付ける手順を通じて、自分の楽器を完成させる。
標準サイズの鍵盤とプラグを備え、前期型・後期型に相当する2種類のフィルターを搭載。切り替えには基板上のジャンパーピンを使う。外からノブを回すだけでは見えにくい音の選択が、内部の接続と結び付く。フルサイズの復刻を、自ら手を動かして確かめる構成だ。
二種類のフィルターを内部で選ぶ構成は、外観がよく似た楽器にも異なる回路の歴史があることを示す。部品を組み付ける人は、完成した音を聴くだけでなく、その音を選ぶ接続にも触れる。すべての電子回路を自作する専門知識を前提にせず、楽器の内部へ近づく入口を用意したキットだ。組み立てという手順があることで、音の出る箱を買う行為に、構造を確かめる時間が加わっている。
完成後は、パッチ・パネルと外部信号の処理が別の探索を開く。通常のノブ操作で音色を調整しながら、ケーブルで信号の関係を変え、外から入れた音も材料にできる。部品を正しく固定する組み立てと、音を聴きながら経路を試す演奏は、同じ手を使っていても目的が違う。前者で楽器を完成させた後、後者によって使い方を広げていく。MIDIとUSBは、その手仕事から生まれた一台を、ほかの制作機材と並べるための接点となる。
パッチ・ケーブルによる信号経路の変更と外部信号処理も継承する。さらにMIDI INとUSB-MIDIに対応し、組み上がった楽器を既存の制作環境へ接続できる。部品から完成した後も、ケーブルのつなぎ方で音を探す作業は続く。組み立てと演奏が、異なる段階の試行としてつながっている。