064

GOOD DESIGN Best100 デザイナーズプレゼンテーション

製品を売ったあと、その設計を開いたら何が起こるのか。2013年11月1日、坂巻はGOOD DESIGN EXHIBITION 2013で「製品の回路図を公開する」と題して発表した。対象はKORGの受賞企画、回路図公開によるオープンなコミュニティ形成だった。

東京ミッドタウン・ホールBのデザイナーズプレゼンテーションに、商品企画室主幹・デザイナーとして登壇。公開映像では、monotronの基板に改造の手がかりとなる信号名を記し、利用者の改造や要望を受けて回路図公開へ進んだ経緯が語られる。11月1日の発表では、製品を企画した立場から、その発想を伝えた。

発表映像に出てくる基板上の文字は、一般には筐体の内側に隠れる情報だ。どこにどんな信号があるのかを示す手掛かりがあると、回路を調べる人は製品を別の角度から読める。演奏する人に向けた操作面と、改造する人に向けた基板。その二つの接点が一台の中に重なることが、monotronをめぐる話の出発点になっている。メーカーの設計と利用者の創意が接する場所は、売り場だけではない。

公開された情報は、それだけで全員に同じ使い方を求めるものではない。音を楽しむ人はそのまま演奏でき、回路に関心がある人は内部の働きへ踏み込める。製品への関わり方を複数にするという視点で見れば、回路図の公開は機能の追加とは違う設計上の選択になる。グッドデザインの会場で紹介されたのは、完成品の形だけでなく、使い手が手を加えた後にも続くメーカーとの関係だった。小さな楽器をめぐる取り組みが、製品とコミュニティの問題へ広がる。

monotronは小さなアナログ・シンセサイザーだが、この発表が扱う対象は筐体の中だけに収まらない。使い手が機能を変え、その発想にメーカーも刺激を受ける。設計情報を介した往復が、製品のその後を形づくるという話である。受賞者は株式会社コルグ。個人の単独受賞ではなく、メーカーと利用者の関係そのものを紹介した発表として位置づけられる。