AW 08

WIRED Audi INNOVATION AWARD

楽器に触れる前に必要だと思われていた技能を、道具の側から考え直す。坂巻 匡彦は2016年のWIRED Audi INNOVATION AWARD受賞者に選ばれた。WIRED日本版とAudiが、個人の活動に光を当てた表彰である。

受賞者インタビューで取り上げられたのは、KAOSSILATORやlittleBitsを通じた音づくりへの入口だ。指でパッドに触れる操作や、部品をつなぐ構成は、演奏の専門技能がなくても音を扱い始めるための方法になる。楽器の企画を、使う人の行為を変える設計として読むことができる。

本人が語る企画の出発点は、使い手の話を聞き、行為を観察し、そこにある楽しさを取り出すことだ。演奏を習熟した人のための道具に加え、音を鳴らすだけでも面白いと感じられる接点を考える。楽器は何かの目的を効率よく達成する道具とは性格が違い、使う行為そのものが楽しみになる。その特徴が、どの操作を入口にするかという企画の問いにつながっている。

受賞者紹介には、15歳の頃、ヒップホップをつくりたくて手に入れたのが、意図したサンプラーではなくシンセサイザーだったという回想もある。欲しかった音と違っていても、音を鳴らしフレーズをつくる行為は楽しかった。その経験と、使い手を観察して楽しさを凝縮する仕事が結び付く。できないことを訓練だけで埋めるのではなく、まず触れてみたいと思える道具を用意する。表彰が取り上げたのは、こうした関心を製品や共同制作へ継続して持ち込む活動だった。

littleBits Synth Kitでは、電子モジュールをつなぎ、自分で楽器を組み立てる体験を提示した。坂巻個人への表彰は、こうした商品企画とデザインの実践に向けられている。技術の複雑さをどのような操作へ置き換えるか。音をつくりたいという関心が、実際に音を鳴らす行為へつながるように、製品と人の間を設計する仕事である。